暖簾をくぐると、煙草と醤油の混じった匂いが鼻をついた。
カウンターに数人、みな定年を過ぎたとおぼしき男たちが、それぞれひとりで黙々と杯を傾けている。示し合わせたわけでもなかろうが、誰もが似たような背中の丸め方をしていた。長い年月をかけて、人はみな同じ姿勢で老いてゆくものらしい。
私は焼き鳥を十本、お任せで包んでもらえるよう頼み、隅の席に腰を落ち着けた。今夜は家で飲もうと決めていた。
「あんた、あそこの常連かね」
隣の老人が、虚空に向かって喋りかけているのかと思ったら、どうやら私のことらしかった。白髪を七三に分け、皺の刻まれた顔に小さな目が光っている。
「いえ、初めてです」と私は答えた。
「そうか」
それだけ言って、老人はしばらく黙っていた。ぐい呑みをひとつ傾ける。また黙る。
「わしはね、昔通った店があってね」
誰に語るでもなく、老人は話し始めた。
「ママがいたんですよ。きれいな人でね。和服がよく似合う。石川さゆりっていう歌手、知ってるかね。ああいう感じの」
――石川さゆり。
私の頭に、あの艶やかな姿がすっと浮かんだ。白粉の香りがしそうな、夜の似合う美しい女。
「その人が引退してね。もう会えなくなった」
老人は言った。静かな声だった。怒りも嘆きもない。ただ、事実として。
「それからね、夢を見るんですよ。何度も何度も。あの人を口説く夢を」
「成就するんですか」と、私はいつの間にか尋ねていた。
老人はふっと笑った。
「それがね、必ず駄目なんです。もう少しというところで、いつも終わる。もう何年経つかな。夢の中でも振られ続けとる」
老人は、ぐい呑みの底に残った酒を眺めながら言った。
「人生というのは、面白いもんだねえ」
それは愚痴でも嘆きでもなかった。水が低きに流れるように、ただそうある、という言葉だった。
老人はゆっくりと立ち上がり、帰り支度を始めた。財布を取り出し、小銭を数える。そうして、自分の前に残っていたつまみを器に移し始めた。
「これ、持ってお帰り」
と、その器を私の前に置いた。
「え、いいんですか」
「年取るとね、食べられなくなるんですよ。大した量じゃないけど」
断る言葉が見つからなかった。ありがとうございます、と私は素直に受け取った。
老人はコートの前を合わせながら厨房のほうへふらりと歩いてゆき、でんと鎮座したおでんの鍋を覗き込んだ。そうして、まるで悪戯を思いついた子供のような顔で、串を一本つまみ上げ、ぱくりと口に入れた。
「田中さん、もう、だめですよ!」
女将が苦笑いしながら声を上げた。叱っているのか甘やかしているのか、判然としない声音だった。
老人――田中さんというらしい――は知らん顔で鼻歌を歌いながら暖簾をくぐっていった。
しん、と店が静まり返った。
残されたカウンターの客たちは、誰も何も言わなかった。ただ、それぞれの杯の中を、それぞれの速度で眺めていた。
私は器の中のつまみを見た。
夢の中でも振られ続ける女の面影を、老人はどんな顔で見ているのだろう。いや、見ているのではないかもしれない。ただそこにある、夜の景色のように。
厨房から、焼き鳥が十本できあがりましたと声がかかった。
私はそれを受け取り、老人からもらった器を大事に鞄に入れて、暖簾をくぐった。
夜の空気が冷たかった。どこかから、かすかに鼻歌が聞こえるような気がした。
(つづく)
※これ、さっき30分くらい前に私が見た夢の概要をAIに渡して書いてもらったものです。
文才がなくても、アイデアさえあればイッパシノ小説家気分になれる。そういう時代ですねw

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